準備が出来ると、フレックを残して去って行くメイドたち。後に残ったのは伯爵が連れてきている兵士が一人と、執事と思われる男性が一人。そしてこちら側はわたしとリリア。そしてフレックの三人だけ。
「ここからは私達だけだ。少し落ち着いて話せそうだな」
「はぁ……」
「そう警戒しないでいい。こちら側に特にアイザック家に思う事は無いよ」
にこりと笑う伯爵には一切の曇りが見当たらない。
「それでは今回のご訪問と、アスティ嬢の事について伺っても?」
「もちろん構わない。というかマクサス、先ほども言っただろう? 堅いぞ」
「そう仰られてもですね……」
どうしたらいいのか分からず、ご婦人の方へと視線を移す。
「本当に構いませんわ。この人はこういう性格なんです。気が合いそうだとか、気が許せると直接会って判断した時は、本当にこうして直ぐに言葉や行動を崩してしまうんですのよ。そこが困ったところでもあり、まぁいいところでもありますけど」
顔を隠す事もなく本当にくすくすと笑う夫人。
「では本当によろしんですね?」
「もちろんだ。そうでなければ今日ここに来た意味がない」
「そうですか。よろしくお願いたーーお願いするよ」
「あぁよろしく」
伯爵が差し出す右手を、俺も右手を出しお互いにギュッと握った。
その後しばらくはお互いの住んでいる場所の事などを話し、少しずつ距離感を詰めていく。
話が弾むと喉も乾く。
互いの夫婦が2敗目のお茶を頼む頃になって、ようやく伯爵の方から今回の件について話を切り出した。
「今回の訪問の件なのだがな&hell
準備が出来ると、フレックを残して去って行くメイドたち。後に残ったのは伯爵が連れてきている兵士が一人と、執事と思われる男性が一人。そしてこちら側はわたしとリリア。そしてフレックの三人だけ。「ここからは私達だけだ。少し落ち着いて話せそうだな」「はぁ……」「そう警戒しないでいい。こちら側に特にアイザック家に思う事は無いよ」 にこりと笑う伯爵には一切の曇りが見当たらない。「それでは今回のご訪問と、アスティ嬢の事について伺っても?」「もちろん構わない。というかマクサス、先ほども言っただろう? 堅いぞ」「そう仰られてもですね……」 どうしたらいいのか分からず、ご婦人の方へと視線を移す。「本当に構いませんわ。この人はこういう性格なんです。気が合いそうだとか、気が許せると直接会って判断した時は、本当にこうして直ぐに言葉や行動を崩してしまうんですのよ。そこが困ったところでもあり、まぁいいところでもありますけど」 顔を隠す事もなく本当にくすくすと笑う夫人。「では本当によろしんですね?」「もちろんだ。そうでなければ今日ここに来た意味がない」「そうですか。よろしくお願いたーーお願いするよ」「あぁよろしく」 伯爵が差し出す右手を、俺も右手を出しお互いにギュッと握った。 その後しばらくはお互いの住んでいる場所の事などを話し、少しずつ距離感を詰めていく。 話が弾むと喉も乾く。 互いの夫婦が2敗目のお茶を頼む頃になって、ようやく伯爵の方から今回の件について話を切り出した。「今回の訪問の件なのだがな&hell
僕がアスティとちょっと仲良くなっていた頃――。「どうぞ、狭いところで申し訳ないのですが、お寛ぎいただければと思います」「これは……」 ロイドやアスティ嬢を置いて来てしまったが、これで良かったのだろう。アルスター伯爵の方からどこかあの二人を遠ざけた印象が有ったが、二人には聞かれたくない話でもあるのだろう。 それに今回の突然の訪問と、アスティ嬢とのことの真意を聞かねばならない。――まぁ貴族社交界にてその名の売れたアルスター卿に私がどれだけ対抗できるかは目に見えてはいるのだが……。 食事が終わり、お茶を飲むためにサロンへと移動して、ドアを開け部屋の中へとアルスター夫妻を誘う。 部屋の中へ入ったところで、ガルバン殿が感嘆の声を上げたのだが、実の所我屋敷の密かな自慢の部屋となっているので、少しだけ驚いた顔を見られて嬉しかったりする。「これは見事な部屋だな」「そうですわね。ウチもこのような形にするべきですわ」「うむ。帰ったら検討してみよう」 夫婦揃って部屋を見渡しつつそんな会話をしている。 アイザック家の屋敷は、中庭を一つの庭園として見渡せるようになっていて、得に今いるサロンからは眺めを邪魔される事のない様に、出来る限り窓脇を用いないような造りとなっている。天気のいい日などはその窓部分を片側に治めるようにすることで、直ぐにでも中庭へと出られるようにもできる。 ただこの造りに関していうと、防犯面の対策をしっかりとしないといけない。その点では私がこの部屋を使う事であれば、その問題は解決する。いたる所に見えない様にな
噴水が有る場所を中心として小さな四阿がこしらえてあるので、そこへとアスティを案内しつつ、アスティの様子をうかがう。――だいぶ落ち着いてくれたかな? 落ち着いてくれてるといいな……。 「アスティ様座りましょうか」「は、はい……」 さっとポケットからハンカチを取り出して、アスティの近くにある椅子の上へと掛ける。「あ、ありがとうございます。ロイド様」「ううん。汚れてしまうともったいないでしょ。とても似合っているドレスなんだし」「似合って……ますか?」 派手さは無いものの、アスティの髪色に併せたのか、薄水色のワンピース型のドレスにところどころレースがあしらわれていて、可愛らしい見た目のアスティにとてもよく似合っていた。「はい。とてもよくお似合いだと思います」「そ、そうですか。ありがとうごじゃいましゅ」 今度は照れてしまって噛んだみたいだ。ちょっとアスティが落ち着くまで、そのまま噴水から聞こえてくる水しぶきの音と、花の香りを感じて待った。「ロイド様」「落ち着きましたか?」 しばらく眺めていると、アスティの方から声を掛けられた。「はい」「それは良かった」「あの……ロイド様……」「何でしょうか?」 小さな声で僕へと話しかけるアスティ。「その……。ロイド様は私と同じ歳だと聞いております」「そうですね」「その&hell
「噂と少し違うようだな。アイザック家の子供たちは」 お酒も進んで、お互いに話が弾みだしたころ、突然伯爵様がそんな事を言い出す。「どんな噂ですか?」「ふむ。私も聞いただけなのだが、何でも息子はとても平凡だと――」「あなた!!」「む!?」 父さんの問いかけに、聞いた話だと前置きしてから話しだした伯爵様を、お妃様がものすごい速さでその先を言わせない様にと口を挟む。「これは失礼した。マクサス殿、ロイド君すまない」 お妃様にとがめられ、僕らの方へと頭を垂れる伯爵様。「いえいえいえ!! 頭を上げてください!!」 それにとても驚いたのは父さん。そして母さんも僕も驚く。 貴族が、しかもその家のご当主が格下の貴族に対して何のためらいもなく、自分の非を認めて頭を下げるという事はまずない。 しかし、眼も前でそれが起こってしまったのだから、僕達が驚いてしまうのも無理はないと思う。「アルスター伯爵様がお聞きになっている噂というモノを、私達も耳にしたことがございます。そういう噂が広まっているのも存じていますので、どうぞお気になさらないでいただきたい」「マクサス殿にそう言われてしまうと……。分かった。この話はここではもうしない様にしよう」「ありがとうございます」 父さんがあまを下げるのと一緒に、僕らも頭を下げた。 ちょっと空気が重くなり始めたのだけれど、なんとかその場は持ちこたえることが出来て、またまったく違う内容の世間話などで場の流れを変えていく。 しばらくはそのままの時間が過ぎて、食事も既に
男の人の後ろへと隠れてしまった女の子。 その様子を、ため息をつきながらもどこか温かい目で見つめる様子を見て、僕はこの人達もとても仲がいい家族なんだと思った。 首位の様子を伺いようやく少し落ち着いたのか、三人揃って僕たちの方へと近付いてくる。それを一歩前に出た父さんが迎えた。「良くいらっしゃいました。ようこそアイザック領へ。このような遠いところまで来ていただき感謝いたします。アルスター伯爵様」「こちらこそ。お出迎えありがとう、突然の訪問になってしまい申し訳ない」 と、お互いに挨拶が続き、アルスター伯爵から手が差し出され、それを父さんが握り返すことで簡易的ではあるけど、お出迎えの挨拶は上手くいった。「このようなところでは何ですから、皆さんで中へお入りください」「ありがとう。では失礼させてもらうよ」 父さんにアがされて、アルスター伯爵様を先頭に屋敷の中へと入っていく。その後を苦たち家族が続くのだけど、先ほどからアスティと呼ばれていた女の子が、僕質の方へチラチラと視線を向けてくる。――何だろう? 何か変なところあるかな? 視線に気が付いた僕は慌てて服装を見直した。クスッ そんな僕の様子を見た女の子がちょっとだけ笑ってくれた。――あ、笑ってくれた。 笑われてしまったけど、さっきまで不安そうな表情をしていた女の子が自然に笑ってくれたことが凄く嬉しかったし、安心も出来た。 そのまま皆が座れるダイニングへと移動すると、いつも僕らが座る所に父さんと母さんが並ぶ。僕は眠そうな顔をしたフィリアを何とか引っ張る様に立たせたまま、その横へとならんだ。
その日はベッドにいるとすぐに眠りに入る。初めて会うことになるアルスター伯爵様の事も気になるし、アスティという娘がどんな子なのかもにはなるけど、緊張するという暇もなく、気が付いたら既に朝を変えていた。――僕の緊張感ってどうなってるんだろうか? 朝、コルマによる会談の準備のための服装に着替えている間も、そんな事を考えてしまう程、僕はあまりこんな日が来るという事をまだ信じられずにいた。 アイザック家恒例の一家そろっての朝食も、なんだかピリッとした空気の中で食べたので美味しかったのかどうか良く分からない。 それでも父さんと母さんは、緊張していると思っている僕の事を気にかけてくれる。でも本当は僕以上に父さんと母さんが緊張しているのを僕は知っていた。――だって声が震えているんだもん。 話をする度にその事が分ってしまうから、僕は表情には出さないように気を付けていたけど、心の中ではおかしくてつい笑ってしまった。 そしてついにその時が訪れる。 訪れる時間前に屋敷の玄関へ集合して、皆でその時が来るのを待つ。 いくら来る事がわかっているとはいえ、父さんと母さんはそわそわしているのが分かってしまう。その逆にフィリアは大物感漂わせて、大あくびをしていた。 そんなソフィアの姿を見て、僕も少しばかり緊張感が取れた。――ありがとうフィリア。 フィリアの方を見ながらニコッと笑顔を見せつつ心の中でだけお礼を言っておく。僕のその様子に気が付いたフィリアが僕の方を見上げながら首を傾げている。その様子がまた可愛くて和んでしまう。